暑い午後7時。立ち飲み屋で二人の男。
「知ってるか?昔はブタって生き物がいたらしいぞ。」
「なにそれ、ブタ?」
「ああ。なんでも、脂肪も肉もたっぷり付いてて、焼いて食べるとエライ美味かったらしい。脂身がカリカリに焼けて香ばしいんだとよ。坑道から見つかった『焼き肉ガイドブック』って本に載ってたらしいぞ。」
「へー、脂身がねぇ。このシロネコとどっちが美味いのかね。」
「そりゃあブタだろう。原始人の連中、夢中で食べてたらしいぞ。焼いても美味いし、煮込んでもトロトロになって美味いらしい。」
「そりゃすごい。シロネコなんて煮たらカスカスになっちまうからな。おまけに肉も少なくて臭いときたもんだ。」
「そうだろ。絶対ブタの方が美味いって。その本にはな、トントロとかホルモン、カシラ、マルチョウ、ハツ、トンソクなどなど色んな肉の名前が載ってるんだってよ!食べてみてぇなぁ、ブタ。信じられるか?肉が甘いんだってよ!」
「ホントかよ!俺も食べたくなってきたな、ブタ。でさ、ブタってどういう格好してたんだろうな。今の生き物だとどれが近いのかな。近い格好の生き物なら、味も似てるんじゃないか?」
「それはわからんらしい。その本には食べるために切られた肉の写真しか載ってないんだってさ。」
「なんだ、困ったな。それじゃあわかんないな。」
「そうなんだよな。でも、食べてみたいなぁ、ブタ。」
「俺も食べたいなぁ、ブタ。原始人が羨ましくなっちまった。」
「ああ、まったくだ。」
彼らは大きな鼻を避けるようにジョッキに口を付けると、ビールを飲みほした。もし原始人が彼らのことを見たら、驚くと同時に腹を鳴らすかも知れない。
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