■ 登山でのGPS使用はアリかナシか? 2012年11月14日 | |
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登山の遭難原因、1位はずっと道迷いです。滑落や転倒の場合でも、そもそもの原因になっているのは道迷いだったりします。入ってはいけない尾根に迷い込んで滑落したり、登るのも降りるのも無理になって救助を要請するケースもよくある様です。という事は、道に迷わなければ、正しい道を歩いていたならば遭難せずに済んだ人は相当多いはずなのです。
地図とコンパスは登山の必須装備です。それを否定する気はありません。地図読みの技術も、高山低山関係なく、山に入るなら習得しておくべきでしょう。しかしそれだけで本当に道迷いは防げるのでしょうか?僕は、あまりそうは思えないのです。
現在地を常に把握し続ける困難 登山においては、常に自分がどこにいるのか把握していなければいけません。よく登山道ですれ違うときに「あとどのくらいですかね」なんて聞かれますが、そもそもその質問が(挨拶的な意味以外では)ナンセンスなのです。少なくとも、登山道のどこら辺を歩いているかは把握し続けていなければいけません。
例えば、前のチェックポイントからの経過時間とコースタイムから残りが判ります。また、高度計と地図やルートの標高をグラフ化した物を見比べると、ルートのどの辺にいるのか判ります。僕も以前はカシミール3Dで作った登山道の標高グラフと、腕時計が表示する標高を見比べてどの辺か確認していました。また、普通に地図と地形を見比べて現在地を同定することも出来ます。
しかしそのどれもが、正直面倒くさい。登山は手間を楽しむ面もありますが、疲れていたり天気が悪かったりすると地図やグラフを出すのも億劫になります。手間を楽しむなんて言っていられない状況もあり得ます。そうなると、どこら辺を歩いてのかよくわからないけど、まぁ、道は続いてるしなんとなくあっちの方だからそのうち着くだろう、みたいな状態になります。これって道迷いの第一歩だと思いますし、ホワイトアウトしてその状態だとすでに遭難です。ビバークの装備や技術が無ければ死にます。
人間はちょっとした事でパニックを起こし、正常な判断が出来なくなる動物です。僕はパニックになった時に正しい地図読みや現在地同定を出来る自信はありません。が、GPSは簡単に現在地を教えてくれます。人間と違って常に冷静に現在地を教えてくれます。
GPSがあれば、遭難したときやしかけたときに、ビバークするのに適した場所に導いてくれるかも知れません。
なんだかんだ言ってもGPSは便利ですよ GPSは便利です。谷底みたいな、GPS衛星からの信号を受信しにくいところでは位置の精度が落ちますが、普通に空が広く見える場所でなら半径10mほどの精度で現在地が判ります。山においてはピンポイントと言っていい精度です。画面を見れば一発で現在地が判りますから、常に神経を使って現在地の同定をする必要もありません。拙作のiPhone用GPSアプリであるDIY GPSの場合は、ルートを設定しておけばチェックポイントまでの距離、標高差、予想時間が全て判ります。頭の情報処理からすると非常に楽になりますから、道を歩く方に神経を使えます。
以前は登山用のGPSといえばガーミン社がほぼ独占していました。が、現在はスマートフォンで登山用のGPSアプリを動かせば遜色なく使える様になっています。2012年においては、山用のGPSは高嶺の花ではなくなっているのです。
気軽で便利に使えるGPSですが、山でGPSを使う事、特にスマートフォンのGPSを登山に使う事を否定する人が少なからず存在します。どういう事なのでしょうか?
登山でのGPS使用はアリかナシか? 「GPSなんかに頼っていたら読図の技術が身につかない」とか「GPSの情報を過信してはならない」という事で、GPSを否定する人がいます。半分は合ってますが半分は間違っていると思います。
■GPSでも読図の技術は必要 GPSが教えてくれるのは『今どこにいるか?』です。ですから、『この先どこに行くべきか?』は人間が考えて決めなくてはいけません。無雪期の一般ルートを歩くなら道なりに歩けばいいんだから特に考えなくても、道を外れなければ危険な箇所は多くありません(まぁ、それでも迷う人は迷うんだけど)。が、バリエーションルートや積雪期の場合は、地図を見て等高線から地形を読む技術が必要です。じゃないと危険な場所に迷い込んでしまいます。地図記号も判っていないと崖に特攻なんて事にもなります。ですから、GPSを使うといっても読図の勉強は必要なのです。
また、無雪期の山でGPSを使うと、現在立っている場所の地形と地図の地形を見比べる事が出来ます。これは地図読みの訓練として非常に有効です。そういう経験を積むと等高線から地形を読む技術の向上にも繋がりますので、読図技術の向上という点でもGPS使用は良いことだと思っています。
■「GPSの情報を過信してはならない」のか? これは半分くらい合ってます。確かに前述の通りGPSの位置情報は精度が落ちる場合があります。が、それでも人間が地形を見て現在地を同定するのよりは正確な位置が表示されます。普通は精度が情報として画面に表示されますから精度が下がっているときは人間が注意すれば良いのです。
それに、過信してはならないという点でいえば国土地理院の地図だって相当なものです。登山道はかなり古い情報らしく奥多摩辺りでも実際と違う箇所がよくあります。それを元にしていると思われる有名登山地図の登山道も実際と違う箇所が結構あります。つまり、情報というのは常に全て過信してはならないという事なのです。
また、こういう意見もあるでしょう。
■「GPSは壊れたり電池が切れたりする」 確かにその通りです。ガーミン社のGPS機器は防水ですが、スマートフォンをGPSとして使う場合は水濡れに注意しなければいけません。大抵のスマートフォンは防水ではありません。けど、防水でないのは皆さんの体だって同じ。山での水濡れは死に繋がります。だから雨具やザックカバーがあるんですよね。スマートフォンだって同じで、防水ケースを付ければ問題なく雨の中でも使えます。
電池だって同様。ガスストーブのカートリッジは予備を持っていったりしますよね。電池は携帯充電器を持てばいいわけですから、これは欠点というか装備を持つか持たないかという話になります。スマートフォンをGPSとして使う気があるなら防水ケースや携帯充電器も持つのが当たり前なのです。なお、ガーミンの場合は単3電池を大量に持つか、切れたら山小屋で買う事になります。
もちろんGPS機器を持っていても地図とコンパスは『バックアップとして』必要です。が、意地悪な事を言えば地図とコンパスだって絶対ではありません。A4コピー紙に印刷した地図は濡れたら滲むし破けます。耐水ペーパーの地図でも稜線で広げたら飛ばされてしまうかも知れません。
道具は使う人間次第で有用であったりゴミになったりします。道具の欠点だけ挙げ連ねて否定するのではなく、道具の特性を知って正しく使う事が大事だと思います。
■「機械に頼ってお手軽な登山をしてなにが楽しい?」 これはもう、趣味の話です。現代の登山用具というのはウェア一つ取ってもハイテク素材が使われています。ザック、靴、アイゼン、下着、帽子にサングラス、全てが21世紀の技術で作られていますから30年前の人から見たらとんでもなく快適な登山が出来ているはずです。
山小屋、バス、ロープウェイ、携帯電話などインフラ面でも相当に快適に、お手軽になっています。そういった21世紀の科学の恩恵に浴して登山をしておきながらGPSだけ特別扱いして揶揄するのは道理が通りません。が、趣味の問題となれば話は別です。趣味というのは大抵道理が引っ込んで無理が通る世界ですから。趣味と趣味とがぶつかる場合、大抵は両者とも不幸になります。ですから趣味の問題でGPSを否定する人は黙ってた方がいいか、あくまで趣味の問題と考えた方がいいんじゃないかと思います。じゃないと、『なーにアークテリクスのザック背負ってマムートのウェア着てハイテク批判してるんだろう』って思われちゃうかも知れません。
という訳で、GPSを否定する意見というのは理屈に合っていないと僕は考えます。道迷いの防止に繋がる、迷った場合のリカバリにも有効、現在地同定の為に神経を使わなくていいので歩く事に集中出来るなど、GPS機器の使用はメリットが多いと思います。欠点もありますが、それは人間が把握して適切に使えば良いのです。
僕は、登山ではどんどんGPSを使うべきだと思います。
まとめ ・現在地を把握し続けていなければ、いつか道迷いで遭難します。 ・現在地を知るにはGPSが最も手っ取り早いです。 ・GPSを有効に使うには、読図技術や適切な水濡れ対策、電源の確保など、知識や道具が必要になります。 ・GPSを否定するのは、もはや趣味の問題だと思っています。
・登山に限らず、山に入る場合はGPSを持っていた方が良いと思います。
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