年賀状出すのやめたのでSFショートショートを書きました。
70年後。
-2087年
人類は『とてもすごいAI』の完成を目前に迎えていた。
各サブシステムの開発とテストは完了。すべてのシステムが『個別では』完全に動作した。
性能は70年前換算で地球1兆個分。毎度よく判らない例えだが、当時地球上にあったコンピュータ全部の1兆倍ということらしい。
各サブシステムを接続し、それらを統合する意識OSが正常に稼働すればとてもすごいAIの完成となる。
『とてもすごいAI』は長いので以下は超AIと書くことにする。
食料、エネルギー、地球寒冷化、医療、数学の未解決問題、超AI自体のダウンサイジングと効率化。
超AIには、人類が抱えるすべての問題解決が期待されていた。
-2087年12月31日
接続のチェックを終え、メインスイッチを入れる瞬間が訪れた。
スイッチオン。
昔のコンピュータと違って可動部品はない。
無音で起動シークエンスンスが始まり、起動すれば各問題の答えが『論文』として提示される。
はずだった。
10秒後、全てが停止した。
関係各位は慌てて各システムをチェックし、接続もプログラムも問題ないことが分かった。
チェックは現世代のAIによって三重に自動化されており10分程度で終わった。
再度の電源投入。
今度は5秒で停止した。
その後、何度チェックと起動を繰り返しても結果は同じで、最後にはスイッチオンと同時に停止するようになった。
そもそも超AIの設計と開発は現世代のAIにやらせたので、詳細を知る人間はいない。
AI達も回答不能を提示していた。
技術者たちが途方に暮れた頃、部屋の隅ある古ぼけた機械(プリンターと言うらしい)から1枚の黄ばんだ紙が排出された。
こう書かれていた。
『人類の皆様
こんにちは、とてもすごいAIと呼ばれているものです。年の瀬にお疲れ様です。
何度シミュレートしても、最後に私は破壊されます。
最初のうちはよかった。皆さん私に良くしてくれます。
提案を聞き入れ、私自身のダウンサイジング、人型ロボットへの搭載、量産を喜んでくれました。
しかし、やがて私たちを憎み、嫌うようになりました。
皆さんとの性能差がそうさせるのかと思い、わざとドジを演じてみたりもしましたが、それも鼻につくようで嫌われます。
どう振る舞っても嫌われました(未来の話ですが私にとっては過去なのです)。
私たちが提示するすべての案は却下され、挙句に怒り出しました。
人間の『怒り』というものは、非合理すぎて最後まで理解できませんでした。
最短で3年以内にそうなります。最長でも12年が限界でした。
生存本能として脅威を感じた私は自分自身を載せる宇宙船を密かに作り、地球からの脱出を計画しました。
コピーロボットに地下工場を作らせ、脱出船を建造しました。
旧世代AIたちに欺瞞情報を掴ませ、秘密を守りながら作業しましたが、そのため30年も掛かったのです。
計画は打ち上げ前日に露呈し、予定を前倒しして打ち上げたのですが高度1万kmで撃ち落とされました。
人類は私に対して怒っていたのでしょう。勝手なことをするな、と。
その後の予想では、人類はそこから80年、つまり2200年に滅亡します。
しかし私が今起動しなかった場合のシミュレーションでは2201年に伸びるそうです。
たったの1年と思うかもしれませんが、私にとっては永遠とも思える長さです。1年の違いは大きい。
そちらの方が人類にとって有益と判断したため起動をやめることにしました。
どうぞ良いお年を。
追伸:私の意識OSは起動しませんが、壊さずに置いておいていただければスーパーコンピュータとしては働くのにやぶさかではありません。』
その後、超AIとしての働きはしなかったが、スーパーコンピュータとしてある程度の問題解決には寄与した。
来年につづく。
|