今回は、開発者はアプリユーザーとどう向き合えばいいのか、どうしたらアプリのファンを増やせるのかを書いてみたいと思います。
ユーザーのタイプは5つある アプリユーザーは、アプリとの関わりや行動によって大きく5タイプに分けられます。内訳は下記の通りです。名前は今適当に考えました。
・エヴァンジェリスト ・ユーザー ・ホルダー ・イレイザー ・クレイマー 一つずつ解説してみましょう。
エヴァンジェリスト 伝道者 開発者にとって同志と呼べる存在です。特にアプリを気に入ってくれて、ブログやツイッターなどSNSで紹介してくれたり実コミュニケーションで広めてくれる人です。アプリの使い方にも熟練し開発者と同じ、場合によっては開発者以上にアプリを使いこなしてくれます。
どういう人がエヴァンジェリストになってくれるかというと、アプリに対する嗜好が開発者に近い人です。機能やデザインに共感してくれた人がエヴァンジェリストになってくれます。
ユーザー 使い、たまにレビューする人 アプリを日常的に使っている人です。アプリの機能は半分以上使いこなせます。判らない部分は説明書を読んで自分で理解出来ます。まれにレビューを書いてくれますが、最高評価はなかなか付けてくれません。
ホルダー アプリを買っても使わない人 アプリをインストールしても使わない人です。僕もインストールしたけど使っていないアプリはたくさんあります。そう考えると実はホルダーが一番多いのかも知れません。無料アプリの場合はホルダーの割合が高くなります。
また、セールをすると「とりあえず買っておこう」という心理で買った人がホルダーになりがちです。使っていないので当然レビューも書きません。アプリや開発者に対するアクションはほぼありません。たまに、そのアプリが別のところで話題になったり偶然使ってみたりしてユーザーに変わる事もあります。
イレイザー アプリを買って一度使い削除する人 アプリをインストールして使ってみたけど、意味がわからなかったり好みと違ったりアプリを無価値と判断して削除してしまう人です。アプリを削除してあとはもう忘れます。無料アプリの場合はホルダーと並んで多いと思います。有料アプリの場合はクレイマーに変わる事があります。
クレイマー 開発者やアプリを憎む人 アプリが実際にしょーもなかったか、説明を読まずに使って理解出来なかったか、間違った使い方をしたか、アプリの性能が思っていたのと違ったか、などの理由でレビューで☆1を付けてある事ない事罵詈雑言、詐欺だクソアプリだと罵倒レビューを書く人です。ちゃんとしたアプリを作っている人にとっては頭の痛い存在です。
開発者にとってのユーザータイプ 開発者にとって嬉しいのはもちろんエヴァンジェリストです。開発者だけでは出来ない口コミを生み出してくれるのは本当にありがたいです。時に開発者にアドバイスをくれたりします。アプリに対するアドバイスも的確で心強い味方になってくれます。もしエヴァンジェリストが現われたら大事な友達と思ってください。
次にありがたいのはユーザーです。ユーザーはエヴァンジェリストになってくれる可能性を持っていますし、アプリの起動頻度もランキングの要素になっているそうなので日常的に使ってくれるだけで嬉しい存在です。無料アプリの広告モデルの場合は単に使ってくれるだけでも開発者に広告料が入る場合がありますので、その点でもユーザーの存在はありがたいのです。
ホルダーとイレイザーは、開発者にとっては空気のような存在です。ぶっちゃけた言い方をすると、売りきりのアプリの場合はアプリを買った時点で開発者に売上げの70%が入り、以降は金銭的なやり取りが発生しません。よって、買ってから一度しか使っていない人も100回使ってくれた人も、売上げの点では等価です。レビューを書いたり口コミをしたりしない場合は害も益も無い存在となります。
ホルダーは今後アプリを使ってくれる可能性がありますので、潜在的なユーザーと考えられます。もう一度アプリの情報に触れれば使ってくれて、ユーザーやエヴァンジェリストになる可能性がありますので、アプリのPRを頑張ると良いと思います。
イレイザーは最初の起動でユーザーになってくれるかどうかが決まります。初回の起動で気に入らなければアプリを消して終わりです。そこで終わればまだいいのですがクレイマーになると困ります。
恐いのはクレイマーです。出来れば一人も出て欲しくありません。アプリを正しく使えなかった場合にしても、勘違いして買った場合にしても、本人と開発者両方が不幸になります。レビューの内容によっては懸念事項を報告する事での削除依頼も可能ですが、出来ればやりたくないですからクレイマーを生まないようにするのが最善です。
どうしたらファンになってもらえるか? 重要なのは手厚いサポートです。サポートなくしてユーザーはエヴァンジェリストになりませんし、ホルダーやイレイザーはユーザーになりません。サポートが手厚くないがために、本来ユーザーになるはずの人がイレイザーやクレイマーになってしまうのです。
サポート体制は大きく2つに分けられます。
・直接サポート 例えばメールやツイッター、実際に会うなど1対1でのサポートです。アプリの使用者が増えるとパンクすると思うかも知れませんが、現状のアプリ市場程度の規模であれば個人でも対応可能です。アプリの質問や要望受付をするためのチャンネルは必ず用意しましょう。
問い合わせてくるのはエヴァンジェリストとユーザーです。そういった人々のITリテラシは様々ですから、最初のメールでは状況すら判らない場合がほとんどです。機種やOSのバージョン、アプリは最新版を入れているのかアップデートしていないのか、どういう状況で困っているかを1通目の問い合わせで的確に書いてくる場合はほぼありません。ですが、状況を問い直す場合は極力丁寧に、相手の自尊心を傷付けないように注意してください。上司であまりパソコンなどに詳しくない人がいたらその人の事を想像して丁寧にメールなどを書きましょう。
直接でのやり取りになりますので誤解や疑問を解決する絶好のチャンスです。ユーザーがアプリのどこを判りにくいと思ったのか?説明書のどこに誤解の種があるのかなど、こちらの問題を洗い出す好機と捉えましょう。判りにくい部分を見つけたら説明書を書き直したりアプリで案内が出るようにしたりユーザビリティの向上に役立ててください。
・間接サポート 解説サイトや説明書、アプリ内のアラートなどユーザーに提供する情報を間接サポートと呼びます。直接サポートの場合はユーザーもそれなりの労力を使います。自分にとってなにが判らないのかを理解し、状況を文章で正確に説明するのは大変な作業です。ですから、出来るだけユーザーが直接問い合わせをしなくても済むように導く必要があります。
文章はもちろん動画、画像などを駆使して説明用のWebサイトを作ります。アプリ内にヘルプを組み込むのもいいのですが、アプリ内のヘルプはタブコントロールインターフェイスを使う場合を除いて「使いながらヘルプを見られない」という欠点があります。また、アプリ内にヘルプを組み込んでしまうと内容を書き換えたい場合はアプリのバージョンアップをしなければならず手間が掛ります。それにヘルプに使う画像や文章によりアプリが肥大化してしまいます。というわけで、僕はあまりアプリ内にヘルプを組み込みません。
アプリ内ヘルプの欠点 ・アプリを使いながら見られない。 ・アップデートに手間が掛る。 ・アプリが肥大化しやすい。 ヘルプはWebサイトとして作り、そこに動画や画像を使った丁寧な解説を掲載するのが良いと思います。毎日の様に自分で読み、わかりにくい点は随時修正します。直接サポートにより判りにくいと判明した部分も加筆修正を繰り返します。解説サイトへのリンクをアプリ内に組み込んだり、PDF版を作ってそれをダウンロードするリンクをアプリに組み込むのも良いと思います。
また、アプリの初回起動時に説明書への導線を張ったり、まずやるべき事を説明したり、初めてアプリを起動した人がそこで投げ出さないようにしなければなりません。でないとイレイザーやクレイマーを生んでしまいます。
間接サポートの充実はユーザーにとってはわざわざ問い合わせる手間を省き、開発者にとっては直接サポートの件数を減らし労力を減らす効果があります。両者にとって良い結果を生むはずです。間接サポートを充実させる事でイレイザーを減らしユーザーを増やす事が出来ます。
どうしたらクレイマーを減らせるか? クレイマーだって最初から悪意があってアプリを買ったわけではありません。おそらくアプリに期待してお金を払い、でもその期待を裏切られたと思うからクレイマーになってしまうのです。
GPSアプリを例に出しますが、GPSは状況によって現在地を取得できなかったり出来ても時間が掛る事があります。その場合、なぜそういう動作をしているのかをユーザーが判っていないと問題は全てアプリのせいになります。地形やiPhoneのせいとは考えないのです。そうなると、そのユーザーはクレイマーになる可能性が高くなります。「山で使えない!クソアプリ!詐欺アプリ!金返せ!」となってしまいます。
なぜそうなのか?を知っているか知らないかでその後のユーザーの行動が変わるのです。その為に大事なのが説明書をはじめとしたサポート体制となります。多くの人は別に悪意を持ってクレイマーになっているわけではないという事を忘れないでください。そのユーザーをクレイマーにしたのは、開発者による説明不足、サポート不足が原因の場合が多いのです(もしかしたら中には単なる悪意で罵詈雑言を書く人もいるかも知れませんが、そういった根拠がない否定レビューは大体削除依頼で消せます)。
アプリのファンを増やすためには直接サポートが大事、アプリのアンチを生まないためには間接サポートが大事なのです。アプリ開発においてはアプリの品質と同じくらいサポートも大事と考えてください。
開発者もユーザーも幸せになれる様、サポートに力を入れましょう。毎日コツコツやればきっと判ってくれるユーザー、エヴァンジェリストが増えてみんなで幸せになれます。
セールはホルダーを増やすだけ 最後、セールについて少し書きます。セールはアプリの売上げ「本数」を増やすための最も手っ取り早い方法です。が、やり過ぎると問題が出てきます。
・「とりあえず買っておこう」というだけで買ったホルダーばかりになる。 セール期間中の駆け込みインストールで、買ったけど使わないという人ばかりになってしまいます。ホルダーはアプリを使わないのでレビューも書きませんし口コミも生みません。アプリを起動しないのでランキング的にも有利になりません。ホルダーに対して低価格でアプリを売るのは数千円のお金にはなりますが、将来的にそれほど大きなメリットにはなりません。
・アプリの価値を低く見るユーザーが増える。 1,000円で買ったものと100円で買ったもの、どちらを大事に使うか?どちらなら説明書をちゃんと読むか?100円で買ったものは雑に使うし、それを作った人にも敬意を払わない場合が多いと思います。レビューを見ていると「ダメアプリ。無料の時に入れておいて良かった」なんて書いてる人を見かけます(実際にあったレビューで、そのアプリ(拙作ではありません)は僕にとっては凄く良いアプリです)。簡単に手に入れたものは雑にしか使わないので正しく使われない場合があるのです。
折角セールをしても雑にしか使われないのであればセールした甲斐がありません。あまりに値引率が大きいセールや、一時的な無料化などは避けた方が良いでしょう。レビューに取り返しの付かない傷を残す事になりかねません。
・最終的な総売上額が減る。 アプリのタイプによりますが、例えば潜在ユーザーが1万人のアプリの場合、250円で売って1万人に売れると(実際に1万人に売れるアプリなんてほとんどありませんが)、250*0.7*10000=175万円になります。が、半分の5千人にセールとして85円で売り残りの人に250円で売った場合は30万円+87万5千円で117万5千円になります。利益としては33%減です。
潜在ユーザー数が100万人など多い場合は33%減でも十分な利益でしょうが、ニッチなアプリの場合は「セールしなくてもいずれ買う人」への「無駄な安売り」になってしまいます。ユーザーにとっては250円も85円も大差ありません。本当に欲しいアプリであれば250円でも500円でも買います。が「無駄な安売り」をして多くの人に安く売った場合、開発者にとっては数十万円とか数百万円の差になるのです。
この金額の差は結局「開発者がそのアプリにどの程度専念できるか」に繋がります。当然多ければ専念できる時間が増えるのでアプリは進化します。アプリ開発を仕事と考えるなら、開発者といえどお金と時間の計算も出来なければなりません。ただなんとなくセールをしてアプリの価値を損ねたり逸失利益を拡大してはならないのです。
・セールについてひとまずまとめ セールで増える使用者はホルダーだったり、雑にしか使わずにレビューで低評価を付けるクレイマーだったり、アプリにとってあまり有益でない場合が多いと思います。確かに一時的に売上本数が上がってランキング上位に入る事が出来ます。値段を変えるのは管理サイトで簡単に出来るのでついやりがちですが、気をつけないと「無駄な安売り」に終わってしまいます。
また、セールをしてもランキング上位にいられるのはほんの数日。そこからジワジワと順位を落としてジャンル別で50位より下になるともはや定価で買う人はいなくなります。それは有料アプリとしてはほとんど死を意味しますので、セールは注意深く行わなくてはならないのです。
セールについてはまた今度詳しく書きます。
まとめ ・アプリの品質ももちろん大事ですがサポートに力を入れましょう。 ・サポートで手を抜くと開発者もユーザーも不幸になります。 ・安易なセールはホルダーとクレイマーを生むだけでアプリにとって有益になりにくい。
という訳で、アプリユーザーをタイプ別に分けて考えてみました。文章の便宜上タイプ別に分けましたが、大事なのは一人一人に対し敬意を持って接する事、真摯な態度でコミュニケーションする事に尽きます。丁寧なサポートの先に、ユーザーとの信頼関係が生まれるのです。
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